なぜ「期待したほどの成果」が出ないのか?のか?

「即戦力として採用したのに、期待したほどではなかった」 「前職ではバリバリだった人が、うちでは今ひとつ活躍できていない」

このような言葉を、これまで何度も経営者や人事担当者から聞いてきました。 特に中小企業においては、新卒採用よりも中途採用が多く、「早く戦力になってほしい」というプレッシャーが強くかかります。

私自身も、現場と経営の間に立って中途社員の支援をしてきた中で、この“ズレ”の正体を何度も目の当たりにしてきました。

それは果たして、本人の能力の問題なのでしょうか? 実は、「能力が足りない」のではなく、「発揮できる土台が整っていない」というケースが圧倒的に多いのです。

仕事が「3倍遅くなる」転職初期

転職経験のある方は思い出してみてください。 同じ業種・同じ職種であっても、会社が変わると何もかもがスムーズにいかない。

たとえば営業職。 前職では10分でできていた見積書作成に、転職先では30分以上かかる。 「何をどう書くか」は分かっていても—— ・製品の仕様 ・提案フロー ・社内承認の流れ ・書式の違い ・ツールの使い方

このすべてが変わることで、「知っているのにできない」状態が発生するのです。 しかも、本人は「なんで自分はこんなにできないんだろう…」と自信を失っていく。 周囲も、「思ったより使えないのでは?」と、距離を取り始める。

このように、立ち上がりでつまずく構造的な理由を理解せずに放置すると、せっかくの人材が“活かされないまま”終わってしまいます。

対策(1):「3ヶ月目までに落ち込むのは正常」と伝える

私が関わったあるIT企業では、「新しい環境に慣れるまでには200日かかる」という共通認識がありました。 この“200日理論”を知っているだけで、本人も周囲も、余計な焦りを感じにくくなります。

具体的には、

  • 最初の1ヶ月:業務フローやツールに慣れる
  • 2〜3ヶ月:仕事にスピードが出ず、つらくなる
  • 4ヶ月以降:やっと自分らしく動けるようになる

ここで重要なのは、“落ち込むタイミングも想定内”と最初に伝えておくこと。 そうすることで、本人も「自分がダメなんじゃない」と思えるようになり、助けを求めやすくなります。

対策(2):「聞いていい文化」が、立ち上がりスピードを左右する

知らないことは聞けばいい」とは言うものの、実際には聞けない人が多いです。 とくに30代後半〜50代の中途社員には、 「人に聞く=恥」 「仕事は自分でなんとかするもの」 という価値観がしみついていることがあります。

私がサポートしたある製造業の事例では、新しく入った40代の係長が、書類の回付フローを一度も聞けずに3週間放置していました。 結局、上司に報告が届かず、クレームになって発覚。 「なぜ聞かなかったのか?」と問うと、「自分で解決しようと思っていた」とのこと。

このような事態を防ぐには、

  • 「聞くことは前向きな行動」と上司が公言する
  • 「わからないこと一覧」を新人に記録してもらう
  • 年下の同僚にも「教える役割」を明確に依頼する

こうした“聞いていい空気づくり”が、立ち上がりのスピードを加速させます。

対策(3):中途社員自身に「客観的な棚卸し」を促す

本人側にもできることがあります。それは、自分の能力を3つのレイヤーで見つめ直すことです。ここを理解すると、すべき質問がわかるため立ち上がりが早くなります。

  1. 共通能力:どの会社でも通用する力(例:対人スキル、論理的思考)
  2. 専門知識:業種や職種に固有の知識(例:医療、IT、製造など)
  3. 制度理解:その会社のルールや仕組み(例:社内承認フロー、勤怠管理など)

転職後にパフォーマンスが落ちる最大の理由は、「3番目の制度理解」が抜けていること。それを理解すると、「知らないものはできない」ことがわかり部下にだって後輩にだって気楽に聞けるようになります。

  • 自分にある力はどれか?
  • 今、どこが足りていないのか?
  • 誰にどう聞けば早くキャッチアップできるか?

を一緒に棚卸ししていくことで、中途社員は前向きに育つようになります。

経営者がすべきこと:能力よりも「土壌づくり」

中途社員の早期退職やパフォーマンスの不振は、能力不足ではなく「仕組み不足」「関係性の不足」が原因です。

経営者・マネジメント層ができることは、

  1. 落ち込むタイミングを見越してフォローする
  2. 聞いていい空気を意識的につくる
  3. 自分の成長ポイントを客観視できる支援をする

この3つを整えるだけで、同じ人材でも成果の出方は劇的に変わります。

まとめ:「活かせない会社」から「活かせる会社」へ

優秀な人材が来ないと悩む前に、自社はその人の力を活かせる会社かどうか?を問い直してみてください。

「人を活かす」とは、「仕組みを整え」「感情を汲み」「関係性を築く」ことです。 制度やスキル研修だけでなく、“人の気持ちが動く設計”をぜひ意識してみてください。