なぜ外部から来た管理職はうまくいかないのか?
「実績もスキルもある管理職を採用したのに、チームがまとまらない」 「現場との関係性が築けず、かえって空気が悪くなっている」
経営者として、こんな経験はありませんか?
私はこれまで、さまざまな中小企業で外部から管理職を採用する場面に立ち会ってきました。そのなかで、「即戦力になるはずだった人材が、なぜか浮いてしまう」ケースを多く見てきました。
経営者側からすると、「あれだけの経験があるのだから、現場をまとめられるはずだ」と思いたくなるのも当然です。しかし、管理職が浮いてしまう原因は、本人の能力不足というよりも、「チームの中に入るプロセスを誤っている」ことにあります。
管理職の“浮きこぼれ”が起きる瞬間
ある中堅企業での実例です。
新たに雇用した総務部長。部下5名を任されていたものの、1ヶ月もしないうちにこんな声が聞こえてきました。
「前のやり方を否定ばかりする」 「急に新しい制度を持ち出して現場が混乱している」
本人は、会社を良くしようと必死だったのかもしれません。 しかし、現場からすると、「誰だこの人?」「何もわかってないくせに」と不信感が先に立ってしまうのです。
結果、部長は孤立し、半年以内に退職。 採用にかけたコストだけでなく、現場のモチベーションも下がってしまいました。
原因:所属の欲求と承認の欲求を無視している
このような“浮きこぼれ”が起きる理由を、マズローの5段階欲求説で説明できます。
人は、所属の欲求(自分がこの組織に属しているという実感) そして、承認の欲求(自分の存在を認められたい)を満たすことで、はじめてその組織の一員として力を発揮します。
新しく入った管理職は、この2つの段階をすっ飛ばして、「結果を出さなきゃ」と焦る傾向があります。 一方で既存のメンバーは、「新しい人とうまくやっていけるかな」という不安を抱えています。
つまり、両者の“心の準備”ができていないまま業務が進んでしまうのです。
対策(1):まずは「所属の欲求」を満たす関係性づくり
組織に着任したばかりの管理職が最初にやるべきことは、“信頼構築”です。 いきなり仕事でリーダーシップを発揮する前に、以下のような「お互いを知る機会」という目的をお互い理解しておこいましょう。
- 自己紹介を丁寧に行う(経歴よりも「なぜここに来たか」の思い)
- 個別面談でメンバーの価値観・誇り・配慮じ事項・感じている問題
- ランチ会や懇親会などで、個性・チームでの立ち位置・関係性
こうした“共感のプロセス”を経て、はじめてチームの一員として受け入れられます。
対策(2):承認のステップを意識して「言葉にして伝える」
次に大事なのは、承認の欲求を満たすこと。
新しい管理職が、「メンバーの仕事ぶり」「こだわっていること」「成果の背景」に気づき、きちんと認めてあげることが重要です。
- 「その視点、すごく現場ならではですね」
- 「こういうこだわりがあるんだね、勉強になります」
というように、“相手の努力や工夫を見ているよ”という姿勢を言葉にして伝えてください。
このステップが飛ばされると、「上から目線」と受け取られ、信頼を得ることは難しくなります。
対策(3):管理職に求められる“聞く力”と“共有力”
浮きこぼれる管理職の共通点は、「一人でやろうとする」傾向です。 自分の中に答えがあるタイプの方ほど、聞くことが苦手です。
しかし、現場の実情やメンバーの特性を知らないまま動いてしまうと、必ず空回りします。
- まずは“聴く”ことに集中する(30分、相手に話させてみる)kか
- 自分の考えや方向性は、後で共有する
- 正式に伝えるときには、方針展開という形で全員に同じものを伝える
この順番を守ることで、「聞いてくれる人」「対話ができる人」という評価がつきます。
経営者や人事担当は、この“聞く・共有の順番”ができているかを面談などでチェックしてください。
まとめ:管理職が活きるも、沈むも「最初の90聞日」で決まる
外から来た管理職がうまくいくかどうかは、最初の90日間の過ごし方にかかっています。
経営者がこの段階をしっかりサポートし、所属と承認のプロセスを大事にしてくれるよう促すことで、浮きこぼれは避けられます。
そして、すでにいる社員たちには「新しいリーダーを育てる」という視点を持ってもらうこと。
優秀な管理職を“ただ採用するだけ”ではなく、“活かす”という視点で組織づくりを見直してみませんか?