辞める理由が「見えない」ままでいいのか?
「何が不満だったのか、最後までわからなかった」 「家庭の事情、と言っていたが、本当にそれだけ?」
このように、社員が突然辞めてしまった経験はありませんか?
特に、真面目で文句も言わず働いていた社員ほど、予兆が見えずに退職していく傾向があります。私はこれを“見えないストレス”と呼んでいます。
この“見えないストレス”を軽視すると、本人が苦しむだけでなく、企業にとっても「離職リスク」という見えない爆弾を抱えることになります。
保育園で起きた「なんとなく辞めたくなる」現象
ある保育園で、毎年のように新人が3ヶ月で辞めるという問題がありました。 表向きの理由は「通勤が遠くて大変」「家庭の事情」など。
しかし、部外者の私が、面談の中で話を聞いていくと—— 「忙しそうで聞けず、一人で抱え込んでいた」 「ちょっとした注意が叱責のように感じた」 「任せるといったのに、説明なくダメに決まっていると言われた」
つまり、“制度や待遇”の話ではなく、“感情の置き場所”がなかったのです。
このような「感情のつかえ」は、数値化されない分だけ発見しづらく、放置されがちです。しかし確実に、社員の“辞めたい気持ち”を蓄積していきます。
ストレスの原因は「感情×構造」で発生する
ストレスの原因は、大きく分けて2つの要素から成り立っています。
- 感情的要因:認められていない、仲間に入れていない、不安や孤独
- 構造的要因:役割が不明瞭、業務過多、支援が不足している
この2つが掛け算になることで、“ストレス”という形で現れます。 たとえば、「仕事が忙しい」という状況でも、
- 忙しくても、頼れる人がいれば乗り越えられる
- 忙しくて、しかも孤立していると、心が折れる
つまり、“感情の支え”があるかどうかが、同じ環境でも結果を大きく左右するのです。
対策(1):見えない感情を“見える言葉”にする面談設計
見えないストレスを可視化するには、面談が有効です。 ただし、形式的な「困ってることありますか?」ではなく、“感情に触れる質問”を組み込むことが重要です。
例:
- 最近、気持ちよく働けてますか?
- 不安やモヤモヤはどんな時に感じますか?
- 仕事で「嬉しかった瞬間」や「納得いかないこと」は?
これらは業務の話ではなく、「感情の流れ」を見る質問です。 人は、自分の感情を言語化できると、それだけで整理され、ストレスが軽減されることもあります。
対策(2):役割・支援・つながりを設計する
もう一つは、“構造側のメンテナンス”です。
- 自分の役割が明確であるか?
- 困ったとき、質問する先が決まっているか?
(シフト勤務の職場などでは、組織を超えて聞ける人がいるという方法も必要) - 本部など第三者の窓口が明記されているか?
この3つが整っていれば、少々の負荷がかかっても人は辞めません。
特に中途社員や異動者には、最初の数ヶ月で“孤立しない仕組み”を意識的に作ることが大切です。
対策(3):辞める前に話せる“安心できる場所”をつくる
社員の離職を防ぐ上で、「退職願が出る前に本音を言える場所」があるかどうかは極めて重要です。
- 一対一で話せる人がいるか?
- 自分の弱さや迷いを話しても評価が下がらないと信じられるか?
この“心理的安全性”は、数字では測れないですが、最も大事な指標です。例えば、月1回のカジュアル面談や、メンター制度なども有効です。形式よりも、「この場ではどんな話でもしていいよ」と言ってもらえることが大切です。
ちなみに、保育園では新人には先輩メンターとの月一面談を義務にしていました。スタバで二人でお茶してね。と経費を渡してました。結構これが良かったみたいです。
まとめ:定着のカギは「気づける組織」かどうか
離職率の高い会社は、「辞める理由が不明」となりがちです。 一方で、人が定着する会社は「辞めたくなる気持ち」に早く気づき、対応できる仕組みを持っています。
その差は、“目に見える制度”ではなく、“見えない感情”をどれだけ汲み取れるかにあります。
社員の声が聞こえてくる仕組み 感情が言葉になる場づくり 孤立させない人と人との接点
こうした地味な取り組みが、「ここで働きたい」という気持ちを育てていきます。
辞めてから理由を知るのではなく、 辞める前に気づいて対話できる! —そんな組織を目指していきましょう。